昨日とは打って変わってどんよりとした曇り空のヴェクショーの朝。窓から外を見ていると、とても寒そうな格好で通勤の人たちが歩いています。この時期のスウェーデンはこのお天気が標準なのですが、神戸からやってきた私たちには少しこたえますね・・・。
昨日より早めの朝食を終えてまず向かったのはリンネ大学。15年前に私が留学していたヴェクショー大学はカルマル大学と合併して現在リンネ大学となっています。毎年お世話になっている私の恩師、クリスティーナ先生から、「スウェーデンの高齢者福祉」と題してミニ講義をしてもらいました。長年高齢者介護の現場でもマネジャーをしていた彼女の話はとても実践に即していて、いつも勉強になります。特に近年の動向として、予算削減の中でホームヘルプサービスが減らされていった結果、再び家族が高齢者のケアにおいて重要な役割を果たすようになったとのこと。「日本は家族が介護する歴史があったけど、スウェーデンは長年家族は介護をしていなかったから、いま大変なのよ」とお話ししてくれました。実は彼女、10年ほど前に日本に来られたことがあり、オリンピアの各施設をご案内しました。西塚くんとはそのとき以来の再会ということで、改めて時の流れの速さを感じさせられました。
大学のパブでランチを済ませた後は、ヴェクショーで最新の高齢者施設、"Humana Södra Järnvägsgatan" を訪問しました。ここは「Humana」という大手の民間事業者が運営委託をされている施設で、今年の6月にオープンしたばかりです。出迎えてくれたマリソール(Marisol)さんは、以前他の民営の施設を見学したときに案内してくれた方。新しい環境でチャレンジがしたくてこちらに転職し、現在は施設の2つのフロアの責任者をされています。各階に9名のユニットが2つずつ配置された4階建てで、計72名の入居者の方が入れるようになっています。いまのところ、半分ぐらいの方が入居されていました。
建物に入ってまず驚いたのは、その広さとデザインのセンス。どこのインテリアショップに来たのだろうかと錯覚するぐらい、オシャレに北欧デザインでまとめられていました。各居室も39.3㎡あり、リビング、バス・トイレ、ミニキッチン完備。天井がとても高くゆったりした空間で、介護リフト用のレールも備え付けられていました。各居室はスマートキーになっていて、ドアのカギの開け閉めや、薬の管理などは全てスタッフが持っているスマートフォンで行うことができます。施設内にはデジタルサイネージのパネルが何枚も配置され、1週間の食事のメニューや、アクティビティのプログラムなどの情報が流れていました。
スタッフは最終的には60-75名程度になる予定とのこと。バラツキがあるのは、スウェーデンの介護現場で働く人たちは、フルタイムではない方も多いから。こちらでも、フルタイムの50%-90%の仕事をしている人たちがいます。こちらのスタッフ数は、「ここでの仕事にどれだけの人数が必要か」によって施設が決めています。人員配置基準が厳格に定められている日本と比べると、非常に効率的に運営することが可能になります。
今日も引っ越し屋さんが新しく入居される方の荷物を運び込んでいて、これからどんな施設になっていくのかがとても楽しみなところです。
さて、次の訪問先は、ヴェクショー・コミューンが運営するホームヘルプサービスの事務所。この事務所があるダルボという地区は、実は私が15年前に留学していたときに住んでいた寮があるところ。久しぶりに行ってみましたが、当時と全く変わらない様子で、懐かしい思い出がいろいろと蘇ってきました。
ここには2棟の高齢者住宅があり、現在、このステーションのヘルパーさんたちは、この住宅の中でのみサービスを提供しています。お話しをしてくれたのはマネジャーのマリー(Marie Skoglund Hansson)さん。彼女は着任して14ヶ月ですが、これまでにヴェクショーの内外で様々な福祉の仕事をしてきた経験があるほか、一時期は道路標識を作る会社を経営していたこともあるという、異色の経歴の持ち主でした。
現在26名のスタッフが働いていて、そのうち6名が夜間専門。その中に1名のリーダーと、2名の兼任プランナーがいるとのことです。スウェーデンのホームヘルプサービスは社会サービス法に基づいて提供されるのですが、常に法律に適合しているかを照らし合わせるために、コミューンには法律の解釈を教えてくれる部署があるそうです。
ホームヘルプサービスにおいてもデジタル化はかなり進んでいて、ヘルパーさんたちは1人1台スマートフォンを持ち、サービス内容の指示を受けたり、提供したサービスや、利用者の方々の様子を記録したりしています。近年の財政状況の影響でヘルパーの仕事はかなりタイトになっていて、夜間の見守りなどは2分単位で仕事の指示が入っています。そんな時に大切なのが、いかに労働環境を整えるかということ。マリーさんはそこが最も重要な仕事だとおっしゃっていました。実際に現場のヘルパーさんたちともお話しをしましたが、彼女がとても信頼されているということがとてもよく伝わってきました。
それにしても驚いたのは、マネジャーとして仕事をするために、30以上のコンピュータのプログラムを駆使しているということ。いくつかのプログラムを見せてもらいましたが、ここまできめ細かくマネジメントができていれば、よいサービスが提供できるのは当然、といった印象を受けました。日本がまだまだ学ばなければならない分野だと思いました。
充実した研修を終えてホテルに戻った後、私の友人のハンス(Hans Parment)さんがお家に招待してくれました。彼とは空手を通じて知り合って、15年のお付き合いになります。いまはヴェクショー・コミューンのカルチャースクールで、子ども達にフルートや作曲を教えているほか、音楽プロデューサーとしても活躍しています。ケーキとお茶を楽しみながら、フルートの演奏をしてくれたり、スウェーデンの文化や歴史についても面白い話をたくさんしてくれました。そうこうしていると奥さんのウリーカ(Ulika)さんが帰宅。彼女はいまヨガ教室を開いて先生をしています。お嬢さんの結婚式の写真を見せてもらったり、二人の馴れ初め話を聞いたりと、あっという間にとても楽しい時間は過ぎていきました。
Tsukasa