オリンピアスウェーデン研修2022―その4

今日のヴェクショーの最低気温は2℃。肌寒い朝となりました。この週末はさらに冷え込むようで、日曜日のストックホルムの最低気温-3℃となっています。いよいよ冬が近づいてきました。

 

さて、今日の最初の訪問先は、ヴェクショーの中でも移民の人たちが多く暮らす、ダルボ(Dalbo)という地区にあるデイサービスセンター「ルンデン」(Lunden)です。実は20年前に留学していたとき、私はこのセンターのすぐ裏のアパートに住んでいたので、ときどき訪問していました。現在は、1年ほど前に立ち上がったヴェクショー市の介護予防部門の中心となっています。

 

お話をしてくれたのは、家族支援員のカミーラさんと、施設長のマーリンさん。マーリンさんは、以前は昨日訪問したトフタゴーデンの施設長をしていたので、この研修でも何度もお世話になりました。

 

家族支援員(Anhörigkonsulent)とは、介護をしている家族の相談に乗ったり、支援をしたりする役割の人で、ヴェクショー市には3名配置されています。スウェーデンの社会サービス法で、介護をしている家族の支援は市(コミューン)の責任と定められています。血のつながった家族だけではなく、主に介護を担っている友人なども支援の対象に入るとのことです。

介護をしている家族を対象として、8人のグループで半年に6回のミーティングが開かれています。そのテーマは「食事」「運動」「虐待防止」など様々で、最近では男性介護者向けに料理を教えるコースもあるそうです。なかなか感情を表に出したがらない男性たちには、最初は車やスポーツの話題から入るとよいとのこと。このあたりは日本と同じですね。

現在スウェーデンでは、約130万人の人が家族の介護に携わっており、もし彼ら全員が介護をやめてしまうと、38万人のプロの介護士が必要になると推測されています。「家族のサポートをする方が経済的」という言葉から、スウェーデン人の合理的な部分が垣間見られました。ただし、法的には、家族に介護をする義務はありません。高齢者介護の最終的な責任はあくまでも市が担っているのです。

 

ここのデイサービスは4名から8名の3つのグループに分かれています。2つは認知症の方向け、1つはその他の障害を持っている方向けで、それぞれ週に1-2回集まるという形です。スタッフは3-4人のアンダーナースが配置され、かなり手厚い印象を受けました。デイサービスの利用が決まると、まずは家を訪問し、どのグループが適切か、送迎サービスはどうするかなど、担当者が本人・家族と相談をしながら決めていきます。

9:30ごろに集まり、朝食をとってから、活動がスタート。昼食やフィーカをはさんで、15:00ごろにみなさん帰っていきます。活動内容は季節によって変わります。一緒に調理をしたり、体操や運動、散歩をしたりと、スウェーデン人の普通の生活に近いことが行われています。

ひとりひとりの持つ力を最大限に発揮してもらうことが大切にされていて、例えばパン作りをするとき、生地をこねることが難しい人は、レシピを読み上げたり、材料の計量をしたりしています。

利用者のことをよく知るために、家族には本人のライフヒストリー(Levnadsberättelsen)を作ってもらうようにしています。日本でも同様の取り組みはありますが、家族のこと、仕事のこと、趣味のこと、宗教のことなど、かなり細かく記入するようになっていて、とてもきめ細かく本人のことを知ってケアに生かそう、という姿勢が印象的でした。

 

昼食は、隣町のアルベスタまで足を伸ばして、エマニュエルさんとマスミさんご夫妻が運営する「Café St.Clair」へ。スウェーデンと日本の料理を融合させたメニューは地元の人に大人気。平日のお昼にもかかわらず、あっという間に満席になりました。この日のメインはチキンのゴマソース。白いご飯とお味噌汁もついてきて、みんなホッとしていたのではないでしょうか。いつものように記念撮影をして、カフェのInstagramに載せてもらうことになりました。ぜひご覧ください→https://www.instagram.com/cafe.st.clair/

 

午後はまたヴェクショーに戻り、市役所を訪問しました。待っていてくれたのは、認知症看護師のヨハンナさんと、市の高齢福祉課長のマチルダさん。ヴェクショー市での認知症ケアや、人材確保・育成についてお話を伺いました。

 

認知症看護師(Demenssjuksköterska)とは、市や県に配置され、認知症の人や家族の支援をしたり、認知症ケアの指導に当たったりする役職で、様々なネットワークを駆使して活躍する様子から、「巣の中のクモ」(Spindeln i nätet)に例えられています。

ヨハンナさんは、75歳で認知症になった男性、アンデシュさんの事例を使って、スウェーデンでの認知症ケアについてとても分かりやすく説明してくれました。

ヴェクショーでは、地域の保健センターで認知症の診断を受けると、本人の同意を得て、認知症看護師に連絡がいきます。認知症看護師は家族を訪問し、認知症や市の介護サービスに関する情報を提供します。同時に、介護サービス判定員やホームヘルプの責任者ともコンタクトを取り、できるだけ在宅での生活が続けられるようにサポートをしていきます。

数年が経ち、家庭での介護が難しくなったアンデシュさんは、ケア付き住宅(施設)に入居することとなりました。最初は「ホテルに泊まりにきたみたいだ」と喜んでいた彼ですが、次第に暴れたり、怒り出したり、寝られなくなるといったBPSDが出現するようになりました。スタッフたちは、コミュニケーションの方法を工夫したり、日課の散歩を続けたり、怒りの対象となるものを遠ざけたりと、様々な工夫をし、本人に寄り添うケアに取り組みました。その結果、彼は落ち着き、施設の雰囲気も以前のように良くなりました。

そして3年後、認知症の進行により、終末期ケアに入ることになりました。妻のビルギッッタさんに付き添われ、大好きなルイ・アームストロングの曲を聴きながら、最期のときを迎えることになりました。

いま、スウェーデンの認知症ケアにおいて、BPSDへの対応(全国的なBPSD登録システム)、ライフヒストリー、回想法、バリデーション、そしてパーソン・センタード・ケアが大切にされています。私も20年以上、スウェーデンの認知症ケアについて研究をしてきましたが、訪れるために新たな取り組みが行われていて、日本のケアへの大きな学びとなっています。

 

続いてマチルダさんが、ヴェクショーでの介護士の採用や育成に関する取り組みについて、お話をしてくれました。スウェーデンの介護は、アンダーナース(Undersköterska:日本の介護福祉士に相当)が中心となって行っていますが、このアンダーナースの中から、①栄養学・②認知症・③手当て・④終末期ケアの4種類のスペシャリスト(各6人・計24人)を育てる取り組みを始めるために、いま準備をしているとのことでした。

気になる人材採用の状況ですが、「介護職になりたい人が減っている」というのは誤解ではないか、とマチルダさんは言います。働き手の絶対数が減っているから、介護職の採用が難しくなっているというわけです。

介護の担い手を増やすために、現在ヴェクショー市では様々な取り組みを行っています。例えば、実習生に介護職になってもらえるように、スーパーバイザーの育成に力を入れたり、各種のテクノロジーを駆使することにより、介護職の負担を減らしたり、若い人に興味を持ってもらえるようにしています。

また、特に印象に残っているのは、「ヤングケア(ung omsorg)」という13-15歳の若者が定期的に高齢者施設を訪問するプロジェクトで、現在2,535人の若者がスウェーデン国内の332の老人ホームを訪問し、高齢者の日常生活にちょっとしたプラスアルファを提供しています。「こういった取り組みを通じて、介護職の社会的な地位を上げるために、スウェーデン全体としてアクションを起こしていくことが必要です」というマチルダさんの言葉がとても印象に残りました。

 

オリンピアのスウェーデン研修では、「マジメはいいけど"クソマジメ"はいけないよ」という鈴木先生の言葉に従って、観光のプログラムも入れています。夕方、ヴェクショーから車で東に向かって1時間ほどの、「ガラスの王国」(Glasriket)と呼ばれるスモーランド地方のガラス工場地帯を訪問しました。日本でも有名なKosta BodaやOrreforsの工場や、直営のアウトレットショップが並んでいるところです。到着するころにはすでに真っ暗になっていましたが、北欧のクリスマスの雰囲気を楽しむことができました。

 

あっという間にヴェクショーでの研修も明日が最終日。どんな1日になるか、楽しみです!!

 

Tsukasa